アワー・ミュージック

正しいヒマの過ごし方。楽しいお金の使い方。

カルテット観ました

 遅ればせながらドラマの『カルテット』をみました。晴れて期限付き無職となったので、これまで観ようと思っていたけれどずるずると観ないままになっていたドラマや映画を観ていこうと思っていて、その一環です。これまで僕が観た最新のドラマはずっと『最高の離婚』で止まっていたのですが『カルテット』になりました。次はシャーロックを観ようと思っています。

 最初に言っておきますがネタバレとか気にせず感想を書くので、僕のように観よう観ようと思いつつも未だに観ていないという人がいたら読まない方がいいかもしれません。

 

 久しぶりに観終わるのが寂しいドラマに出会ったというか、毎回毎回ここ好き!ポイントがありすぎて自分を抑えるのがたいへんでした。なによりキャストと脚本がいい。キャスティングで一番好きなのがサンドウィッチマンの冨澤で、脇役だけど出てくるだけでニヤニヤしてしまう絶妙な配役だった。あとは単純に満島ひかりの顔面が昔からすごく好きなので嬉しかった。お茶を淹れる松田龍平も可愛いし、高橋一生も最高にあざといし、松たか子の目で語る演技も良かった。

 坂元裕二の脚本の良さは、例えばnaverまとめに載るような、深いい感じの名言とか、誰もが一度は飲み込んだことのあるような、うまく言葉にならない、どうでもいい思いをすくい上げるようなあるある系の小ネタの数々とか、なんでもない会話やモチーフが伏線になってたりする巧みな筋運びとか、いろいろあるんだけど、一番の魅力はいい意味での不親切さだと思う。全てを台詞で説明するんではなくて、ちょっとした挙動とか、表情や視線で表現する。視聴者があれこれ想像出来る余白やさりげない対比や伏線がふんだんにある。ドラマに限らず映画でも漫画でも文章でもバラエティ番組でも、「わかりやすさ」が称揚されがちな現状において、そういう読み込む楽しさがある作品は少なくなってきている。その点に関しては受け手のリテラシーが低下しているというより作り手の「アホな受け手」幻想が肥大化して勝手に強迫観念のようになっているんじゃないかという気がするけど。

 

 全部で10話あって、それぞれの話にここ好き!ポイントが10個はあるので到底語りつくせないんだけど、特に好きなのが満島ひかり回の3話で、胡散臭いお父さんが高橋源一郎なのがそもそも好きなんだけど、なんといってもやっぱり蕎麦屋のシーンが良い。蕎麦屋に入って躊躇なくカツ丼を頼むすずめちゃんに合わせて「カツ丼二つ」と注文をするマキさんの気遣いがあるからこそ、その後の「髪の毛から同じ匂いして/同じお皿使って/おんなじコップ使って/パンツだってなんだって/シャツだってまとめて一緒に洗濯物に放り込んでるじゃないですか/そういうのでも いいじゃないですか」という台詞が何倍にも輝くのだし、お父さんが死にかけているから「病院に行こう」と説得しようとするマキさんに対してすずめちゃんが絞り出す「怒られるかな…ダメかな/家族だから行かなきゃダメかな/行かなきゃ…」という一連の台詞の中の「怒られるかな」の部分がすごくて、「怒られるかな」という台詞はすずめちゃんからしか出てこない。お母さんはとっくの昔に亡くなっていて、お父さんが死にかけているというのに、それに駆けつけなかったからと言って誰に怒られるというのだろう。すずめちゃんの口から咄嗟に「怒られるかな」という台詞が出てくるのは、誰に、というのは問題ではなく、彼女が子供の頃にインチキ魔法少女として過去に汚名を背負う羽目になり、誰とも知れない不特定多数の第三者から強烈なバッシングを受け続けたからであり、表面上では笑ってやり過ごしていても、やはりそのことに深く深く傷ついていて、その傷は未だにちっとも癒えてはいないということがこの「怒られるかな」からありありと伝わってきて、とてもつらい気持ちになった。そんないじらしい姿を見せられたら誰だって「いいよいいよ」って言うよなあという説得力があった。

 

こんな調子で語りたくなるポイントが少なめに見積もってもあと99個はあって、つくづくすごいドラマだと思う。これはリアルタイムで、ほかの人とああでもないこうでもないと意見を交わしながら観ていたかったなと思う。