アワー・ミュージック

正しいヒマの過ごし方。楽しいお金の使い方。

たのしみを見つけたい

 川上弘美の小説、短編集の『溺レる』と『ざらざら』を読んで、とてもいいと思った。登場人物が酒を飲んでたらたらとしたり、大した用事も目的もなく夜を歩いたりしながら、何気ない会話やしぐさの中で、切なくなったりツボに入ったり、ときめいたり遠い気持ちになったりする話が多いんだけど、読んでいて飽きないし、気持ちの中にするりと染み込んできて、読みやすい。現実の生活の味わい方の、新しい切り口をさらりと広げてくれるように感じる。

 いわゆる文学って、その機能を考えると本当に色々あると思うんだけど、一つには時代の美意識を作るっていうのがあって、大仰な言葉で言えば人生観、みたいなものを醸し出すのが文学の一つの役割だと思ってるんだけど、川上弘美の小説はその点すごくよかったです。そういえば一時期、柴崎友香の小説みたいな生き方をしたいと強く思っていたことを今思い出しました。いろんなところに出かけて、いろんなものを見たりいろんな人に会ったりして、いろいろなことを感じたり考えたり話したりする、そんな暮らしぶりに憧れた。柴崎友香の小説では見ること、感じること、話すことの描かれ方がすごく魅力的で、独特の広がりがあって、本当に良い小説家だと思う。

 次々と楽しみを見つけてくるような人を尊敬する。食べたいものとか、行きたい場所とか、したい遊びとか、どこから見つけてくるのかそういうのが絶えない人がいる。僕は放っておくと同じことばかりを繰り返す。食べるものは食べたいものというよりも冷蔵庫の中にあるものだったり、スーパーで安く買えるものだったりして、結局同じものばかり食べている気がする。食べたいものを増やさないから、レパートリーがなかなか増えない。たまに出かけたいと思うときも、普段同じようなところにしか行かないから、行きたい場所も何も知らなくて、どこに出かければいいのか見当もつかない。だから友達に誘われたりしてどこかに行って、いざそういうことになるととても楽しくて、出かけるのが嫌いなわけじゃないと気付き、楽しみを見つけられる人はすごいと思う。今ふと思ったけど今までに何度もこういうこと書いている気がする。こわい。

 おしゃれなカフェとか、イベント情報とかたまに見るには見るんだけど、どれもなんだかよそよそしく見えて、あんまり行く気にならない。お酒が美味しいお店とか、星がよく見える場所とか、いろいろ詳しくなりたいと思いはするけど、なかなかならない。そんな思いを胸にポパイの京都特集をパラパラめくってみると、案外行ったことのあるお店が多くて、そして知らないお店はなんとなくとっかかりがない。友達とぶらぶらしている時には変なお店にヒョイっと入ったりもするので、やはりどこに行くかとか何をしにいくかというより、誰と行くかみたいな話になるのかもしれない。

 もともと一人で完結する趣味ばかり持っているので、趣味に関してはどこかに出かけたり、誰かを誘ったりする必要性が全くなくて、それがよくないように思う。今の趣味を誰かやどこかと結びつけて楽しめるように手を加えるか、まるっきり新しい趣味を始めてみたいと思ってる。どこかに出かけたり、誰かと会う必要がある趣味を見つけたい。ぱっと思いつくのはカメラかアウトドアだけど、たぶんカメラは向いてなくて、どちらにしろ初期投資が結構必要なので踏ん切りはついてない。もうすぐ冬で、冬はキャンプができないからなあ。

そういえば、サークルの夏合宿で、のんべんだらりとボードゲームで遊ぶのは楽しかった。地元の友達とキャンピングカーを借りて海に焚き火をしに行った時も、お楽しみの一つとして一人一個ボードゲームを買って行って遊んで、それも楽しかった。

いま行きたいところを考えてみると、服を買いに行きたいのと、梅田にあるロイヤルゲームセンターってところにファイナルファイトをやりに行きたい。あとこの前みなみ会館のオールナイト上映に行ったら凄く特別感があって楽しかったからまた行きたい。逃現郷で火曜日にやってるらしい映画の上映会にも行ってみたいし、なんかの読書会にも参加してみたい。こうしてみると案外欲まみれなのでよかった。欲望があった方が、毎日たのしいので。