花の都は大東京です
火曜日に面接があったので、東京に行った。大学生になってからは、初めて行く東京だった。最後に行ったのはたしか、大学受験の頃だから、高校三年生の二月で、ニュースになるくらいの大雪が降った日だった。電車が遅れていつもより人が多いであろう車内で、疲れないために僕はしっかりイヤホンをしてナンバーガールを聴いていたことをよく覚えてる。車窓から流れる白い街とか、たよりない気分とか、泊めてくれた兄の部屋のダンボールで作った本棚とか、まったく手ごたえのなかったまま受験会場から帰る電車を待っている時に聞こえた鉄腕アトムのテーマの空々しい響きとか、今でも体感的に思い出せる。
面接会場は六本木で、慣れない場所だし迷ったら困ると思って、3時間半前に着いた。会場までの道のりを3往復してしっかり確かめても余った3時間を持て余し、バーガーキングで時間を潰した。レジを打って接客をするアルバイトが、全員たぶん東南アジア系の外国人だった。どこから来て、どこに住んでいるんだろうと気になった。彼らも長く東京で暮らしていれば、そのうち下北沢で古着を買ったりするようになるのだろうか。深夜アニメを観たりするのだろうか。ブランド品を装備して青山通りを闊歩するのだろうか。
バーガーキングの喫煙席は静かだった。みんな一人で腹にバーガーを詰め込むためだけに来ていて、会話を交わす人はいない。タバコに火をつける音だけが時折響く。「我々は連帯しながら断絶している」なんて長嶋有の小説の一節が頭に浮かんだ。最高の離婚の中で出てきた「二人でする食事はご飯だけど、一人でする食事はエサだよ」みたいな台詞も思い出す。知らない喋らない人たちと同じ空間で、僕も黙々とバーガーの国の王様が考えたであろうバーガーを食べた。
食べ終わったバーガーの包み紙を綺麗に折りたたんでしまって、心ゆくまでタバコを吸った後はやることがなくなってしまったのでその辺をブラブラしてみることにした。電話なんかやめてさァ六本木で会おうよォ〜の歌で有名な街。六本木で会おうよォって言われた場合、待ち合わせはどこなんだろう、みんなの中で六本木のイメージはそんなに共通しているのか。あのなんかでっかい蜘蛛のオブジェがあるところかな。そういえば面接会場の目印として、ツタヤの近くだよって書いてあったんだけど、僕は六本木ヒルズ周辺をブラブラするうちにツタヤを三軒見つけた。目印のツタヤはその中で一番目立たないツタヤだった。
その日は夜に兄とその奥さんと双子の姉と四人で新宿のブレードランナーみたいな店で飲む約束をしていた。楽しみだったから僕はその二日前くらいにブレードランナーを借りて観た。ゴテゴテとして無国籍な未来都市という心躍るヴィジュアルとは裏腹に、テーマは結構重かった。一言で言うならば、生まれつき平等でない命についてかな。とにかく、痛みを感じる映画だった。ハリソン・フォードの痛がる演技は迫真のもので、僕の知る限りいたそうな演技ベスト3には入るだろう。それと登場人物たちの心の痛み。ハードボイルド的な、抑えた調子で撮られているんだけど、それが余計に痛みをむき出しのままに観客に手渡す効果を出していたように思う。
ブレードランナーの中で印象的なのが、雨の降るシーンが多いことだった。雨ばかり降る未来都市というのは新鮮で、その日の新宿は雨だった。大きな荷物を抱えて、雨の降る新宿をしとしと歩いた。遠くのネオンの輪郭が曖昧だった。東京の人は歩くのが速いとよく言うけど、バッチリついていけたので雨の日はそうでもないのかなと思った。これまた1時間前に目的地を肉眼で確かめて、ひまだし雨だし荷物が重かったのでゲームセンターで休んだ。はじめは怒首領蜂最大往生をやっていたが10分で300円くらい溶けたのでやめた。なるべく長持ちするやつを、と思ってQMAで遊んだ。スポーツ系の問題は何一つわからなかった。
あんまり言葉が出てこないので今日はここまで。