冬はつとめて
誰かが自分が好きなことについて、気持ちのいいように綴った文章ってやっぱりいいなと思う。初期の村上春樹(羊をめぐる冒険より前)は、笑うのが好きなジャズミュージシャンがソロをとるみたいに、自分が気分が良くなるように好き勝手書いていたらしいけど、実際村上春樹の初期の短編集を読むとなんとなく気分が良くなる。デビュー作の風の歌を聴けの中に出てくる架空の作家の作品のタイトルは、『気分が良くてなにが悪い?』だった。
春は曙。夏は夜。秋は夕暮れ。冬はつとめて。自分なりの枕草子みたいな文章を、できることなら書いていきたいと思う。
最近好きなもの。ビョークとジョニ・ミッチェル。葉っぱの多い大根、チョコチップクッキー、喫茶店、厚着の人、プレイステーション、コインランドリーからはみ出てくる熱気、ナイキのランニングシューズ、ほうれん草のおひたし、きんぴらごぼう、Post Malone、川上弘美、空き瓶、植物の名前、セーター、針山、伊藤比呂美、アールヌーボー。
ぼくの両親は、すねたようなところがなくて、そこがすごく好きだし尊敬してるし感謝している。なんで自分ばっかり、とか、あいつが妬ましい、とか、疲れ切ったときにはそういう方向に引っ張られたりもするけれど、なんだか居心地が悪くて、長続きしなくて、そういう風に考えるのはやめようと思い直せるのは、すねたようなところがない人たちが暮らす家で育ったからかなと思う。それはすごく恵まれたことだってわかってる。
やっぱりスマホからだとあんまりたくさん書けないな。
空気よりよいものはないのです
それも寒い夜の室内の
空気よりもよいものはないのです
煙よりよいものはないのです
煙より 愉快なものもないのです
やがてはそれがお分かりなのです
同感なさる時が 来るのです
空気よりよいものはないのです
寒い夜の痩せた年増女の手のような
その手の弾力のような
やはらかい またかたい かたいやうな
その手の弾力のやうな 煙のやうな
その女の情熱のやうな
炎えるやうな消えるやうな
冬の夜の室内の 空気よりよいものはないのです
中原中也「冬の夜」