アワー・ミュージック

正しいヒマの過ごし方。楽しいお金の使い方。

ハードボイルドとケストナーに学ぶサバイブ術

さっきちょこっと書いたチャンドラーの小説の中で、こんなセリフがある。

「タフじゃなくては生きていけない。やさしくなくては、生きている資格はない」

二十歳を過ぎたくらいから、これからのこととかも考え始めた時から、めんどくさいことやしんどいことが増え始めて、これからもっと増えていくんだろうなって予感がしているから、この台詞を見たとき、なるほどなと思った。この先何が必要かって、まだまだ全然わかってないけど、タフさは何をするにも絶対必要なんだろうなって思う。人間も動物だし、自然の摂理はなんてったって弱肉強食だから、サバイブしていくためにはタフさは絶対身につけておかなきゃなって思う。私立探偵フィリップ・マーロウは、タフさの他にもやさしさが必要だって言ってて、ケストナーは、かしこさと勇気が必要だって言ってた。
 
「 生きることのきびしさは、お金をかせぐようになると始まるのではない。お金をかせぐことで始まって、それがなんとかなれば終わるものでもない。こんなわかりきったことをむきになって言いはるのは、みんなに人生を深刻に考えてほしいと思っているからではない。そんなことは、ぜったいにない!みんなを不安がらせようと思っているのではないんだ。ちがうんだ。みんなには、できるだけしあわせであってほしい。ちいさなおなかが痛くなるほど、笑ってほしい。
 ただ、ごまかさないでほしい、そして、ごまかされないでほしいのだ。不運はしっかり目をひらいて見つめることを、学んでほしい。うまくいかないことがあっても、おたおたしないでほしい。しくじっても、しゅんとならないでほしい。へこたれないでくれ!くじけない心をもってくれ!
 ボクシングで言えば、ガードをかたくしなければならない。そして、パンチはもちこたえるものだってことを学ばなければならない。さもないと、人生がくらわす最初の一撃で、グロッキーになってしまう。人生ときたら、まったくいやになるほどでっかいグローブをはめているからね!万が一、そんな一発をくらってしまったとき、それなりの心がまえができていなければ、それからはもう、ちっぽけなハエがせきばらいしただけで、ばったりとうつぶせにダウンしてしまうだろう。
 へこたれるな!くじけない心をもて!わかったかい?出だしさえしのげば、もう勝負は半分こっちのものだ。なぜなら、一発おみまいされてもおちついていられれば、あのふたつの性質、つまり勇気とかしこさを発揮できるからだ。ぼくがこれから言うことを、よくよく心にとめておいてほしい。かしこさをともなわない勇気は乱暴でしかないし、勇気をともなわないかしこさは屁のようなものなんだよ!世界の歴史には、かしこくない人びとが勇気をもち、かしこい人びとが臆病だった時代がいくらもあった。これは正しいことではなかった。
 勇気ある人びとがかしこく、かしこい人びとが勇気をもつようになってはじめて、人類も進歩したなと実感されるのだろう。なにを人類の進歩と言うか、これまではともすると誤解されてきたのだ。」エーリヒ・ケストナー飛ぶ教室

 

 
これはケストナーが子供向けに書いた小説『飛ぶ教室』の序文にあたるところで書かれた文章だけど、子供というより小さな大人の年齢になった僕もこれには感銘を受けた。ナチスが幅を利かせていた頃のドイツで執筆されたものだと知った時は、さらに説得力が強まった。ボーイズ、くじけるなよってことを、ケストナーは繰り返し繰り返し、時には優しく、時にはガツンと、言ってくれている。世界は広いんだぜ、つらいことかなしいこともいっぱいあるけど、くじけちゃダメだぜって。くじけないタフさを、大人になる前に身につけておくんだぜって。
子供向けだからといって、甘いウソをつくわけではない、かといって過剰に不安を煽ったりもしない、ケストナーのこの勇気とかしこさの両方が詰まった文章を、子供の頃から読んでおきたかったと今では思う。僕が小さい頃は、海賊ポケットと怪傑ゾロリしか読んでなかったから。今からでも遅くはないと信じて、人生からの重い一発を食らわされても、オタオタしたりくじけたりしないタフさを身に付けたいと思う。だけどケストナーは児童文学で、それに21歳が感銘を受けたって公言するのは恥ずかしいから、上の方で挙げたチャンドラーの方にインスパイアされた、ってことにしておきたい。
というわけで、最近のテーマ曲は、The Cureの、”Boys Don’t Cry”です。N'夙川ボーイズもこの曲をちょいちょいライブでカバーしてたね。くじけるなよー。
 
そういえば、ケストナーの引用の中でボクサーのたとえのくだりがあって思い出したけど、昔々、プレイステーション1の時代に、『ボクサーズロード』っていうゲームがあった。ボクシングのゲームなんだけど、育成パートと試合パートがあって、体重制限も厳しいし、試合もちゃんと立ち回らないと全然勝てない結構シビアなゲームだった。ちょっとやそっとじゃめげないタフさを身につけるには、いいゲームかもしれない。