アワー・ミュージック

正しいヒマの過ごし方。楽しいお金の使い方。

小笠原鳥類に

この前京都に行ったときに三月書房に寄って、目当ての本が売り切れちゃっていたので何の気なしに手に取ったのが小笠原鳥類の『鳥類学フィールドノート』。小笠原鳥類の名前は知っていたしちらっと読んだことはあったけど前衛っぽい感じが鼻について好きじゃなかった。だけどこれをパラパラ立ち読みしてみたらすごく良くて、すぐにレジに運んで有り金を叩いて買った。帰り道に調べてみるとこれは小笠原鳥類の今年出たばかりの最新詩集で、とても安全で安心、安全で、安心ということだった。これですっかりハマって既刊の読める詩はだいたい読んだけど、この『鳥類学フィールドノート』がいちばん詩集全体のまとまりがあって、一編が短く、そして胸いっぱいの音楽なので小笠原鳥類の入門書として最適だと思う。シュルレアリスティックなとっつきにくさもだいぶ薄まっているし、円熟したというか、渋みを増したというか、凄みがあるというか、余裕を感じるというか、どれもあまりそぐわない形容だけど、とにかくこの詩集からは書くものすべてが詩になってしまうような神懸かり的な何かを感じる。ピカソの晩年の絵画のような軽みと音楽がある。

 

 

 

小笠原鳥類の詩は数限りない生き物たちが泳ぐ水槽、あるいは色とりどりの図鑑のようで、そこに切り取られたたくさんの名前や色彩、体の模様、描かれる曲線を眺めているだけでもうっとりするが、声に出してみると素晴らしい音楽だ。「水槽の熱帯魚から 離れられなくなっていた」とスピッツがデビュー曲で歌っていたが、僕は小笠原鳥類の詩から離れられなくなった。図鑑の中にお気に入りの生き物を探すように、詩の中に素晴らしい音楽を聴きつける。無意識を海になぞらえる比喩があるが、とすれば魚は夢であり、彼の詩の中では魚は音楽でもある。

 


小笠原鳥類の詩が音楽だというのは、例えばパウル・クレーの絵画が音楽的だと言われるのと同じ意味で音楽だ。そこには色彩のリズムがある。

 


衝動的に買ってよかった。ちなみにYouTubeで小笠原鳥類と検索すると地下アイドル?が小笠原鳥類の書き下ろしの詩を朗読するミュージックビデオが上がっていてそれもとても安全で安心で最高なのでひまな人や小笠原鳥類が好きな人やアイドルならみんな好きって人は見てみてください。

 

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