ヴィム・ヴェンダース『ランド・オブ・プレンティ』 あの日から僕らが考えている「豊かさ」について
アメリカ合衆国。USA。日本に住む僕らからしたら、まったくのよその国のはずなのに、僕らはみんなアメリカの大統領の名前をフルネームで言える。誰もがアメリカ製のピカピカした映画を観たことがある。ジーンズを履いたことがある。人によっては、ニューヨークに住むのが夢だなんて言っている。だけど、僕らが多かれ少なかれ憧れている、アメリカって一体なんなんだろう。
古くは、新大陸として、新しい思想と、新しい自由と、新しい生活が、新しい人間が、夢見られた国。今だって、アメリカン・ドリームなんて言葉がみんなに通じるくらい、世界中の夢とあこがれが集まる国だ。
アメリカはこれまで、素敵なものをたくさん生み出してきた。たくさんのわくわくする映画を生み出してきたし、ロックンロールが産声を上げたのもアメリカだし、アメリカの文学は、村上春樹をはじめとしてたくさんの人に影響を与えている。
だけど、アメリカは良いことばかりをしてきたわけではない。そもそもインディアンを大量に虐殺してできた国だし、そのあとも戦争をたくさん戦争を起こして、たくさんの人を殺した。ランド・オブ・プレンティ、豊かさの国。アメリカは、その豊かさ、武力を使って、たくさんたくさん、他の国のささやかな幸せを叩き潰してきた。そうして世界中の豊かさを自分のものにした。
それでもずっと、平気な顔をして、私には夢があるだとか、ラブ&ピースだとか、月までロケットを飛ばして、この一歩は小さいが、人類にとっての偉大な一歩だとか、汚いことは何も知らないような顔をして嘯いてきた。
その大きな嘘にみんなが疑いを持ち始めたのは、9・11のテロがあってからだ。大きなビルに飛行機が突っ込んで、みんなが今まで見ないようにしてきたことに目を向けるようになった。ずっと間違ったことをしていたのかもしれないと、すべてに対して疑いだした。そうして、本当の豊かさ、本当の幸せってものを、真剣に考え出した。
この映画は、そんな悲しみを忘れないままに、ある一人の女の子と、ベトナム戦争の傷跡を消せないで、それに気づいてすらいない伯父が、二人で新しい自由や、幸福、豊かさを探す旅をするお話だ。
どんなにささやかでも、ありふれたものでも、かまわない。みんなが、誰も傷つけずに、自分の居場所を、自分の幸せを見つけられたらいいと思う。ラブ&ピースだなんて、嘘みたいなことを、本気で歌える、そんな世界がいつかきたらいいと願っている。
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