アワー・ミュージック

正しいヒマの過ごし方。楽しいお金の使い方。

カラヴァッジォ展に行きました。

ぐずついた天気で濁った頭を抱えながら耳を塞いで、1時間近く電車を乗り継いだ果てにガラス張りのエレベーターに乗り込んだ。14階でチケットを買った。カラヴァッジォの絵を見に来た。

 


1600年前後から活躍を始めたカラヴァッジォの特徴としては何よりもまずスポットライトのような一点からの強い光で、それによって強烈に浮かび上がる造形の力強さ、迫力、生々しさは当時の人々に衝撃を与え、多くの追随者を生んだ。カラヴァッジォと聞いてまず浮かぶのが中期以降のくっきりとした明暗のコントラスト、ドラマチックな画面構成だが、初期の静物、特に果物や花々、を描くときの精細なタッチや明るくくっきりとした線の感触もぼくは好きで、今回来ていた《リュートを弾く若者》は凄く良かった。住み込みをしていたパトロンの館に居たカストラート(去勢された歌手)をモデルとしたとされる中性的な顔立ちの若者が、誘いかけるような目つきでこちらを見ている。その口は半開きになっていて、今まさに歌いだそうとしているようだ。そして画面の手前部分のこちらが手に取れそうな位置にヴァイオリンが置かれている。画面に克明に描かれている楽譜は当時実際に愛唱されていたラブソングのものらしく、私があなたを慕っているのは知っているでしょう、でも私があなたの為なら死ねるということは知らないでしょう、というような情熱的な歌詞だったらしい。澄ました顔で、静かだが確かな眼差しをこちらに向けている若者のこの絵は、この上なく甘美なムードが漂っていた。カストラートは20世紀の始めに教皇によって禁止されたが、最後のカストラートと呼ばれる人物の歌声は録音されて残っているらしい。

 


展覧会の構成としてはカラヴァッジォの初期の絵や影響を与えたとされる人物の絵画が控えめに展示されていて、その後カラヴァッジォの全盛期の絵画と、それをはるかに凌ぐ点数のカラヴァッジォの追随者たちの絵が並んでいる。それらを順を追って見ていくと、カラヴァッジォが編み出した強烈な明暗の対比がいかに人々の心を捉えたか、またそれ以降大した発展を見せずに新古典主義へとつながるような明るい画面にいかにして移り変わっていくか、ということが朧げながらわかるようになっている。また、当時の流行りのモチーフというのもなんとなくわかってくるのが面白い。女性の中ではユディトやサロメ、聖人の中では聖ヨハネや聖ヒエロニムスや聖セバスティアヌスが人気だったようだ。またダヴィデとゴリアテ、ユディトや聖ヨハネの生首など、斬首のシーンを描いたものが多く描かれているのが目についた。

 


聖書のラテン語訳を手がけたとされる聖ヒエロニムスを描いた絵画が数点展示されていて、カラヴァッジォのものと彼のフォロワーのものとがあったが、どう見てもカラヴァッジォのものが一番良かった。カラヴァッジォの描く聖ヒエロニムスからは高度な知性、精神性、静謐さが伝わってきた。突然だが電話がかかってきたので終わります。

 


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