アワー・ミュージック

正しいヒマの過ごし方。楽しいお金の使い方。

買い物

 昨日の夕方頃からどっと冷え込んだ。耳が痛くなる、背骨が冷たくなるような寒さになった。ぼくは三週間前から東北で、この深く息をすると鼻の奥がツンとするような寒さの中に身を置いていたので、冬の始まりを感じるのは今年二度目で、なんだか妙な心地がする。寒いと背中は丸まり身が縮こまり、血の流れが悪くなって頭痛が起きやすくなる気がして好きじゃない。起きるのも出かけるのも億劫になる。

 とはいえ働き始めてはじめての休日、久しぶりにお金を使っちゃおうと勇んで外に出た。弱々しい白日のもとでは、歩き慣れた道中にあるどぶ川や並木、知らない人の家々などがいつもよりもよそよそしく、作り物めいて見えた。近所に荒川洋治全詩集が2400円で売っていたのを覚えていたのでそれを買いに行こうとしていた。荒川洋治は今まで何度か立ち読みをするくらいで、あまり良い印象もなかったけれど、現代詩に関心を持つものなら読んでおかなければいけないような気がして、あと「秋」という詩が良かった覚えもあって、とにかくお金を使って、働いているからこれを買えるんだぞ、ということを自分にわからせてやりたくて、買いに行こうと思った。

 店について店内を物色しているうちに、読みたい本、読みたくない本、どうでもいい本が山のようにあり、今にも虚しさをあぶり出しそうなひろびろとした照明の下を歩き回っているうちに頭がくらくらしてきた。立ち読みをしても印刷された文字が意味を結ばずに上滑りするようになった。いったい僕は何が読みたいのか、どんなことを考えたいと思っているのか自信が持てなくなってきた。限りあるお金を出してまで読みたいものなのか、わからなくなってきた。そんなぼやけた調子で2時間くらい思い悩んだ末、結局荒川洋治は買わなかった。疲れた頭でたまたま目についた講談社文芸文庫の『山之口獏詩文集』を買った。660円だった。解説が荒川洋治だった。