アワー・ミュージック

正しいヒマの過ごし方。楽しいお金の使い方。

いい映画は二度ベルを鳴らす

 読書の楽しみの原体験は、「自分の中のもやもやがピタリと言い当てられている文章を見つけること」だった。映画の楽しみはあこがれや、「欲望を真似すること」だった。スクリーンの向こうのジェームスディーンにあこがれて、赤いジャケットが欲しくなる、そういう瞬間がとても楽しかった(DVDで観たんだけどね)。ちなみに僕はマイケル・J・フォックスに憧れてギターを始めて赤いセミアコを買った。もちろん最初にコピーしようとしたのはチャックベリーだった。

 映画は人々の欲望をスクリーンに投射したもの、的なことをアンドレ・バザンがどっかで書いてたけど、今でもやっぱり映画の楽しみの根本にはあこがれがある気がする。B級ホラーに関しては、そうじゃないけど。
 そういう意味でユニークな映画に、スタンド・バイ・ミーがある。誰もが知ってる名作だけど、これはきっと人生で二度観る映画なんだと思う。一度めは、主人公たちと同じぐらいの年頃、12歳前後の時。二度めは、もっと大人になった時。僕は多分4回くらい観てるけど、初めてみた時は「僕もこんな風に友達と冒険してみたいなあ」と純粋にわくわくした。二度めからは、もっとノスタルジックな、切ない気持ちが強くなった。一度めはあこがれ、二度めはノスタルジー。そんなふうに受け手の年齢によって印象をガラリと変えてしまうこの映画は、やっぱり懐が深くて名作だなあと思う。
 同じように、きっと人生で二度観るべき映画に、去年『20センチュリーウーマン』が加わった。一度めは自分が「息子(もしくは娘)」であるとき。そしてきっと二度めは、自分が親になったとき。三回めがあるとしたら、自分の息子か娘が大人になったときに、一緒に観てあれこれ語り合いたい。何度も言っているけどそんなふうに思わせられるくらい素晴らしい映画だった。減点方式で評価した場合、100点とは言えないかもしれないけど、加点方式で考えると280点、そんないい映画。
 リチャード・リンクレイターの映画も二度観るタイプじゃないかと思う。というか、観るたびに印象に残る場面や、感情移入する人物が変わっていきそうな感じ。淀川長治さんが、観た本数は問題じゃなくて、何度も見返したくなるような映画にどれだけ出会えるかが大事で、そんな映画に出会うための本数を観るんだって言ってた、みたいな話をツイッターで見て、大好きな映画を見返すのってやっぱりいいよなあと思った。あこがれの話からだいぶ飛んじゃったけど。観る側の変化によって、映画の方も変わっていく。だから映画を観ることはやめたくないなと思う。今までで一番見返した映画は多分『ブルースブラザーズ』だけど、あれはいつ見ても変わらない、楽しい気分にさせてくれるから大好き。最近映画観てないからさみしい。