アワー・ミュージック

正しいヒマの過ごし方。楽しいお金の使い方。

気分を金で買え

 好きなものや興味関心、思っていることを言語化することそれ自体が好きというか、一種の気晴らしになっているんだけど、言語化することによってそれまで抱いていた熱が自分の中でストンと落っこちてしまうというか、一段階落ち着いてしまうというか、トカトントンがやってきてしまう、という手ごたえがある。

 頭の中をうまいこと言語化できたときというのはなんだか快感だけれども、それで満足してしまうというか、言葉にできたしこの件はもういいかな、はい、次の方どうぞ、というような気分になってしまう。
 言語化することによって意識的に興味を継続させることができるようになる、という側面もあるにはあるけれど、トカトントンを引き寄せてしまうという面も持ち合わせているように思う。
 自分の気の持ち方とか日々の楽しみ方とか、出かける場所とか一日の過ごし方とか、ある程度は変わり続けていかないと風通しが悪くなって徐々に気持ちが塞いでくるけれど、気分の変え方それ自体も変え続けなければだめなのかもしれない。「これさえやっておけば大丈夫」というのは幻想か薬物でしかないのかもしれない。「リハマタワープ ロンロンパルコ センターオーバー バックバック」は大島弓子の漫画の中に出てくる、怒りを鎮めるためのおまじない。
 関係ないんだけど一時期、80年代的というか、バブルの頃の青春小説とか若者文化に興味があって色々漁っていた時期があったんだけど、80年代というのは、「気分」にお金を払う時代だったんじゃないかと思う。ある時期のコカ・コーラのキャッチコピーが”I feel coke"だったけれど、コカ・コーラの気持ちを感じるためにコカ・コーラを飲む、というか、そういった感じだったんじゃないかとふと思った。
 最近、あんまり気分をお金で買うことをしなくなって、それで代謝が悪くなっているのかもしれない。お金の使い道を限定していると、忙しい日々が続いて落ち着いた頃にふっと風邪をひくみたいに、ある日急に関心の糸が切れて退屈してしまう。まあ、きっとすぐにまた新しく何かを見つけることでしょう。次の休みには、「いい気分」を買いに行こう。
 

マガジンをまるめて歩くいい日だぜ ときおりぽんと股(もも)で鳴らして /加藤治郎