アワー・ミュージック

正しいヒマの過ごし方。楽しいお金の使い方。

音楽

 

 音楽は慰めであるけれど、時には足かせにもなる。思い出を焼きつけるフィルムのような役割を果たすときもあれば、すべて忘れたい時にも聴ける。BGMや雰囲気作りにもなるし、天からの声のように響くこともある。音楽を聴いて、身体の芯から力がぐらぐらとみなぎってくることもあれば、突然の雨に打たれたみたいに気持ちが萎んでしまうこともある。音楽が人を生かすことがあれば、音楽が人を殺すことだってきっとあるんだろう。

音楽がぼくをころす。
青春をころす。
いつか、恨む日が来るだろうと、
わかっていたのに、ぼくは爆音の前へ行く。
音が、
ぼくから引きはがし吹き飛ばした、ちりみたいなものだけが、
ぼくの全てだった。死んだ人の音楽が、ぼくをころす。
かれらがぼくを愛することなど、
永遠にないのだということが、ぼくをわずかに生かしている。
—  最果タヒ『死んでしまう系のぼくらに』「レコードの詩」

 
 最近、音楽を聴いてばかりいる。音楽が好きだと思う。最近読んだ『HOSONO百景』がとても面白かったこともあるし、熊本で音楽や焼きたてのパンに囲まれた生活をちょっと体験したからかもしれない。大した理由なんてないのかもしれない。実際僕はいつだって音楽を聴いてばかりだった。最近あんまり聴いてなかっただけで。いろんな音楽を聴くきっかけになったボブディラン、フィッシュマンズレディオヘッド踊ってばかりの国、あと直近ではS.L.A.C.Kのことは、これからもずっと好きだと思う。
 
 『HOSONO百景』の中で、みんな大好きドクター・ジョンの『ガンボ』に触れて、細野晴臣が「何かと何かが交じり合ったところにいつもおもしろい音楽ができる。それはある特定の場所ではなく、音楽家の頭の中でごった煮になるんだ」って言っていておもしろかった。ドクター・ジョンのアルバムのタイトルになっている「ガンボ」っていうのは、「ニューオーリンズの名物料理で、ごった煮に近いオクラが入ったとろみのあるスープのこと」らしいんだけど、音楽には料理みたいな側面もあると思う。ぼくらのからだはぼくらが口から入れた食べもので作られているけど、同じようにぼくの気分は耳から入れた音楽によって形作られる。うるさい音楽ばかり聴いていたら胃もたれもするし、不用意に暗いものばかり聴いていると食あたりを起こしたりする。だけど暗いものもたまに聴くと、コーラが明らかに体に悪いのにおいしいように、とてもいい気分になったりする。毎日同じものを食べていてはうんざりするし、同じ音楽ばかり聴いていても元気がなくなる。たまには作ったことのない料理を作ってみたり知らなかった音楽を聴いた方が精神衛生にかなりいい。
 肉や魚ばかりじゃなくて野菜もそれなりに食べたくなるし、コーヒーを飲んだら眠れなくなる。夕方以降はなるべくコーヒーを飲まないように気をつけるのと同じように、カフェインの入った音楽はあんまり聴かないようにしている。朝は軽めの、時間のかからない音楽をちょろっと聴いて、おやつの時間には甘ったるいポップソングを聴く。冬にはあたたかいものやじっくり煮込んだような音楽を聴きたくなる。
 
 どういうマインドで物を買ったり、あるいは職業に就いているのかってことは、投票みたいに真っすぐには政治に結びつかないかもしれないけれど、ある場合には投票以上の影響力を持つこともある。つまり、十分に政治的なことなのだ。なにしろ、俺たちの行動の集積が社会なのだから。ゆえに、政治と生活の境界はとてもぼんやりとしていて、なんとも言葉で表しにくいものだと俺は考えている。
 俺の音楽だって、そういう生活のなかから生まれている。電車に乗り、バスに乗り、ふらっと小汚い中華料理屋で炒飯を食べて、自分の作業場で曲を作って、自宅で歌詞を書いている。どんな街でどんな暮らしぶりなのかということは、ものすごく作品に影響する。どこにいっても顔がバレてしまって大変、みたいな状況ではやっていけない。普通という言葉は扱いがとても難しいけれど、俺が考える普通の暮らしのなかから、一切の音楽と言葉が生まれている。
 そう考えると、音楽と政治との間にだって、大きな、はっきりとした隔りなんてないのだ。屁理屈ではなく、どこかで地続きなのだ。
 (中略)君がどんな音楽を選んで聴くのかということは、どこかで社会に関わっている。どのような方法で聴くのかについても、聴いた後でどんな気分になるのかということも、どこかで社会に関わっている。
後藤正文『何度でもオールライトと歌え』
 
 最近エナジードリンク的な音楽があんまり聴けなくなってきた。躁的なテンションがおそろしい。もっと揺れるように踊れる音楽が好きだ。
テンションって、いまでは元気とか明るさの度合いみたいな感じで使われることが多いけど、もともとの意味は緊張で、テンションが高い時っていうのは、確かに緊張感が伴っているような気がする。四六時中緊張していても仕方がないので、朝とか、ちょっと気を引き締めなきゃいけない時だけテンションの高い音楽を聴くようにしてる。
 
 最後に、最近よく聴く曲やアルバムをぺたぺた貼って終わります。
 
 
 映画『20センチュリーウーマン』の中で、印象に残ってるセリフは両手でも足りないくらいたくさんあるんだけど、デヴィッド・ボウイに憧れて赤毛にした女の子の「つらいことがあったら踊るのよ」という言葉が頭から離れない。長い手足と赤いショートヘアーを振り乱してトーキング・ヘッズで踊るあの子はとても素敵だった。
 
Hejira

Hejira

 
Nothing Like the Sun

Nothing Like the Sun

 
ナイトウォッチ(紙ジャケット仕様)

ナイトウォッチ(紙ジャケット仕様)

 
 冷たい夜とかに聴く。眠れない時はケニー・ロギンスの『Nightwatch』を聴きながら夜を見つめる。なんとなくエドワード・ホッパーの描いた人や街を思い出す。代表作の<<ナイトホークス>>と題名が似てるからかな。ちなみにナイトホークスっていうのは”夜更かしをする人”のことらしい。格好良い。
 

 

There's a Riot Goin on

There's a Riot Goin on

 
Voodoo

Voodoo

 
   学校まで歩いて行く時とかに聴いてる。濃密なリズムを耳から流し込んでいるうちに体にきちんと力が入るようになってくるような気がする。
 
King Tubby Dancehall Style Platinum Edition

King Tubby Dancehall Style Platinum Edition

 
我時想う愛

我時想う愛

 

 エンドレスリピート。大のお気に入り。