アワー・ミュージック

正しいヒマの過ごし方。楽しいお金の使い方。

ラストワルツの思い出

僕は今までにマーティン・スコセッシザ・バンドのラストコンサートを撮影した映画『ラストワルツ』を、ビデオだったら擦り切れるくらい何回も何回も、大人には想像もできないくらいの真剣さでもって観てきたから、大好きなシーンがいくつもある。最近はあんまり観てないけど、それでも幾つかのシーンは瞬時にありありと思い出せる。
まずはじめに黒の背景に白抜きの文字で、「できるだけ大音量で上映すること!」という注意書きが出で、ベーシストのリック・ダンコがビリヤードのルールのひとつ、カットスロートのやり方(自分の玉を残して相手の玉を落とす)を解説するシーンから始まって、アンコール後にザ・バンドが一番最後に演奏した曲の映像に合わせてオープニングクレジットとバンドメンバーの名前が流れる演出が格好良い。アンコールに応じて戻って来たロビー・ロバートソンがタバコを片手に客に向かって「まだいたのか?」とスカして見せるのも良い。
It makes no differenceのギターソロで、ビブラートをかける時に右手を振り上げて小刻みに揺らすロビーロバートソンのかっこつけマンっぷりが最高。それとラストワルツはゲスト出演している面々がものすごくて、ロニーホーキンスやボブディランなど、ザ・バンドがかつてバックバンドを勤めていた先輩ミュージシャンから、ジョニ・ミッチェルドクター・ジョン、ニールヤングやクラプトン、ヴァン・モリソンなど同時代のスーパースターたちが集結している。ちゃっかりマディ・ウォーターズまで出ている。
ニールヤングをステージに呼ぶときに、”You know this guy”(字幕では「紹介はいらないね」)って言うのもいいし、ステージに上がったニールヤングが「君たちとやれて本当に嬉しい」って言った後に、マイクには拾われてないけどザ・バンドのメンバーが「何言ってんだよ、俺もだよ」的なことを返してて痺れる。あとこの日のニールヤングは鼻にコカインをどっさり詰めたままステージに立っていたせいで、それを修正するために結構なお金がかかったっていう話もすごい好き。

ニール・ヤングといえば思い出すのはジム・ジャームッシュの『デッドマン』の劇伴の即興演奏で、これがどんな意味も寄せ付けないようなザラザラと荒涼とした音色や無骨なメロディーがすごく良くて、彼岸からかき鳴らされている音楽といった趣があって、この映画のスピリチュアルな雰囲気とめちゃめちゃ合っていてすごく良かった。ちなみに『デッドマン』は1995年の映画で、今となってはめずらしいすっぴんのジョニーデップがたっぷり見られます。この映画は18世紀イギリスの詩人ウィリアム・ブレイクと深い関連があるらしいんだけど、僕にはウィリアム・ブレイクは難しくて詳しくもないのでその辺はよくわかりませんが、彼岸と此岸の間を漂う静かでスピリチュアルなロードムービーとして楽しく鑑賞できました。

話をラストワルツに戻すと、多分一番見返したのがボブディランのシーンで、彼がザ・バンドと一緒に録音したアルバム『プラネット・ウェイブス』からForever youngを演奏するんだけどこれがCD音源より遥かに良い。特にロビー・ロバートソンのギターがぜんぜん違う。あとこの日、ディランがセットリストを他のみんなに事前に言っていなかったらしくて、Forever youngのアウトロを弾きながら、リック・ダンコがめちゃめちゃ不安そうな顔をしているのも味わい深い。次の曲がわかった途端にニコニコしてノリノリになるところも。
他にもクラプトンが演奏中にストラップが外れて、ロビーロバートソンがそのままソロを引き継ぐところとか、エミルーハリスのバックでドラムを叩くリチャード・マニュエル(普段はピアノ)のフォームがすげー下手そうなところとか、The Night They Drove Old Dixie Downの一番サビに入るところの引きのカメラワークが格好良いこととか、好きなシーンは無数にあるけど、無数にあって書ききれないので今回はこのへんにしておきます。『ラストワルツ』は間違いなく僕が音楽にのめり込むきっかけの一つになったし、ひょっとしたら映画にはまったのもこれのせいかもしれない。ラストワルツは一つの偉大なバンドの解散コンサートであると同時に、ロックの一つの時代の終わりのお祭りだったんだなということが今になってはっきりとわかりました。結局このあたりの音楽が一番好きで、余談ですが最近ジョニ・ミッチェルがすごく綺麗に見えてきて、なんだか大人になったのかもなあと感じ入っています。
真夜中に急に何か好きなものについて文章が書きたくなったので、大好きなものについて衝動的に書き散らしてみました。