アワー・ミュージック

正しいヒマの過ごし方。楽しいお金の使い方。

部屋にある壊れたトースターを考える

僕の部屋には壊れたトースターがある。ある時はタバコを吸う時の椅子になって、ある時はノートパソコンを置く台になって、今では巻きタバコ用の道具とか、友達からもらったお土産とかを入れておくための小物入れになっている。壊れたトースターの中に、昔友達からもらったオーストラリア土産の鞭が入っているから、初めて部屋に遊びに来た友達とかはびっくりする。トースターの捨て方がわからないから部屋に置いてただけなんだけど、そんなこんなでいろいろな用途で使ってるから、壊れてるけど邪魔にはなってない。でも壊れているからパンは焼けない。

ものが壊れた状態のことを、うんともすんとも言わなくなったと表現することがある。僕がここ数年で壊したものといえば、トースターとヒーターくらいなんだけど、そのどちらも、壊れる前から「うん」なんて言わなかったし「すん」と言ったことも一度もなかった。「うん」とか「すん」とか言いながら、元気に働く電化製品を僕は今まで見たことがないけど、なんで壊れることをうんともすんとも言わなくなるって表現するんだろう。自分が知らないだけで、他の家ではいろんな家電が「うん」とか「すん」とかの大合唱をして、生活にアクセントを加えてるんだろうか。お前には、見せてないだけで、俺の知らない顔があるのか、と思いながら、中身のさみしい冷蔵庫をジロリとみると、「ブーーーーン…」って言ってた。死にかけのライトセーバーみたいだと思った。中にはトマトとうどんと高菜と調味料が入ってる。というかそれしか入ってない。今日の晩御飯何にしよう。

トースターを壊した夜は悲しかった。まだお酒の飲み方とか考えたこともなかった頃に、ひどく酔ってふらふらの状態で家に帰ってきて、トースターをお姫様か友達か何かだと思ったのかわからないけど、トースターを抱えて踊ってたら床に落として壊しちゃった。フランスのことわざに「熊の敷石」というのがあるらしくて、これはある小話が元になっている。あるところに、一匹の熊と、一人の人間がいました。一人と一匹は仲良しで、晴れた日には野原に座って、並んで熊はハチミツを舐めて、人間はパンなんかを食べたりしていたそうな。ある暑い夏の日に、人間の顔の周りを一匹のハエがしつこく飛んでいた。人間は振り払おうとするんだけど、なかなかハエは離れない。それを見た熊は、助けてあげようと思って、家の前の敷石を持ち上げて、ハエに向かって力いっぱい投げつけた。はたしてハエは死んだんだけど、頭に敷石が直撃した人間も頭がパックリ割れて死んでしまった。という話。だから、「熊の敷石」は余計なお節介とか、無知な友人ほど危険なものはない、とかって意味で使われるらしい。酔っ払ってトースターを壊した時、このお話の熊のような気持ちになった。