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アワー・ミュージック

正しいヒマの過ごし方。楽しいお金の使い方。

くるり『THE WORLD IS MINE』

最近、二年前に水没してからほっったらかしていたiPodが気づいたら直っていて、ときどき不意に音量がMAXになる不具合に怯えながらも、よくイヤホンで音楽を聴くようになった。

これまではパソコンに安いスピーカーを繋いで音楽を聴いていたのだけど、スピーカーよりもイヤホンで聴く方がしっくりくる。というか一つ一つの音に対する注意力が増す。これは僕らぐらいの世代の特徴なのではないかとちらっと思ったけれどそんなことはないかもしれない。
イヤホンで音楽を聴くことで、僕の両耳は世界の他の音からは遮断される。だから音楽が鳴っている間は音楽そのものになれるような気がする。知り合いとすれ違ってもイヤホンしてて気づかなかった、で済ませられる。世の中にはスピーカーで爆音で鳴らすような音楽と、イヤホンで一人で聴く音楽とがあると思う。そのどちらとも言い切れないものもたくさんあるけど。

前置きが長くなってしまったが、くるりの『THE WORLD IS MINE』は間違いなくイヤホンで聴くべき音楽だと思う。曲を作ってる岸田さんがレディオヘッドやジムオルークにどハマりしてた時期だったからか、音響系への目配せが全編に渡って感じられる。それがすごく良い。音の一つ一つが丁寧で、音でここまで多くのことを語れるのかと思う。イヤホンをしてこのアルバムを聴き始めたら、とにかくいろんな音が詰まってて、流れてくる音の一つがおもしろくてしょうがなくて、ついつい一枚丸々聴いてしまう。レディオヘッドやらフリッパーズギターやDJシャドウやフィッシュマンズを聴いている時と同じ感触がする。無人島に持って行こうか迷う何枚かのCDのうちの一つに入った。毎日の生活の中で頭にちらつくモラトリアムとか未来とかっていううるさい単語を一気に消し去ってしまうほどのパワーがある。ただ音に耳を澄ましていればなんとなく満たされた気持ちになる。最高のアルバムだと思う。GUILTYでは身も蓋もない無気力極まりないギターと歌のあとの展開とコーラスはこのアルバムで一番美しい瞬間だと思う。こういう瞬間があるから音楽は好きだと思った。二曲目の静かな海はひたすら心地良くて頭を揺らすのにもってこいだし、GO  BACK TO CHINAは生き物みたいにうねるギターとベースの有機的な絡み合いが格好良いし、脳味噌の隙間にバシンとはまるようなタイトなドラムと珍妙な歌詞がクセになる。ワールドエンドスーパーノヴァは不良でもチャラ男でもガリ勉でもオタクでもない僕らのための最高のダンスミュージックだと思う。この曲がかかるクラブがあったら遊びに行きたいな。続きになってるBUTTERSAND/…は楽しいことがあった後に家に帰って明け方に部屋で一人で聴く音楽って感じがして良い。アマデウスは打って変わってシンプルな音作りでちょっと疲れた耳に心地良いし歌詞が夢見がちなハタチそこそこの青年の途方もない諦めとちょっとした希望が感じられてグッとくる。ARMYはまたなんというか無気力な心に心地良く響く。その次のMIND THE GAPが僕は大好きで、バグパイプの音色で鳴らされる民族音楽チックなフレーズの繰り返しとDJシャドウに通じる強調されたドラムのビートの組み合わせによる高揚感で頭がビリビリしてくる。その後の水中モーターと男の子と女の子、THANK YOU MY  GIRLはベストにも入ってるポップチューンで、ベスト盤で散々聴いたからあんまり感想は湧かないんだけどいい曲。ラストの砂の星とPEARL RIVERは穏やかだけど暗くはない曲で、このアルバムの後味をスッキリさせている。最後は鳥のさえずりと水の音で終わっていて、上手い具合に再び普段の世界に戻ってがんばろうという気になる。

くるりのTHE WORLD IS MINEを聴いていたら夢中になって朝になってしまった。聴き終わってしまえばもうこの世界は僕のものではないけれどがんばろう。今日は夕方からバイトだからがんばるためにちゃんと寝よう。がんばるためにがんばって寝よう。音楽を聴く時と音楽の話をするときはついつい14才になってしまうなあと思いました。